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鹿児島地方裁判所 昭和40年(ワ)186号 判決 1968年2月05日

原告 濃州澱粉株式会社

右代表者代表取締役 松本浩三

右訴訟代理人弁護士 松村仲之助

被告 囎唹澱粉工業協同組合

右代表者代表理事 天水重吉

右訴訟代理人弁護士 田平藤一

主文

1  被告は、原告に対し金二三二万六、七五八円および内金二二八万七、八一八円に対する昭和三八年九月一日以降、残金三万八、九四〇円に対する昭和四〇年五月二八日以降、各完済に至るまでの年五分の割合による金員を支払え。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用は、被告の負担とする。

4  この判決は、第一項および第三項にかぎり仮に執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は、「被告は、原告に対し金二三二万六、七五八円およびこれに対する昭和三八年九月一日以降完済に至るまでの年五分の割合による金員を支払え。」との旨および主文第三項同旨の判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

一、原告は、昭和三四年一月一〇日設立された澱粉の製造販売を業とする会社であり、被告は中小企業等協同組合法に基づいて設立された法人である。

二、(一) 原告は、その設立後程なく被告の承諾を得て被告組合に加入することになり、被告の定款第一〇条第一項、第二〇条の各規定の定めるところに従い、出資金四八万四、〇〇〇円を払込んだ。

(二) 原告は、中小企業等協同組合法第一八条、被告の定款第一二条第二項の各規定に基づき、昭和三八年二月五日被告に対し内容証明郵便により脱退届を提出し(同月八日到達)、被告の事業年度の終である同年八月三一日に脱退した。

(三) ところで、同法第二〇条第一項によれば、「組合員は、脱退したときは、定款の定めるところにより、その持分の全部又は一部の払戻を請求することができる」旨定められ、さらに同条第二項によれば、その「持分は、脱退した事業年度の終における組合財産によって定められる」旨規定されている。そして、被告の定款第一四条第一項本文は、「組合員が脱退したときは、その払込済出資金を限度として払戻すものとする」旨規定し、同第二三条は、「組合員の持分は本組合の正味財産につきその出資口数に応じて算定する」旨規定しているから、原告は上記脱退の日に被告に対し原告が払込んだ上記出資金四八万四、〇〇〇円の払戻請求権を取得したものである。

三、(一) 原告は、被告組合に加入している間に被告との間で次のような消費寄託契約を締結し、その頃左記金一一万一、四五〇円を被告に交付した。

(1)  金額 金一一万一、四五〇円

(2)  返還の時期 定めなし

(二) 原告は、被告組合を脱退する前、被告に対し原告が脱退する際に右金一一万一、四五〇円を返還するよう請求した。

四、同じく原告は、被告組合に加入している間に被告との間で次のような消費寄託契約を締結し、その頃左記金一六九万二、三六八円を被告に交付した。

(1)  金額 金一六九万二、三六八円

(2)  返還の時期 原告が被告から融資を受けなくなった時

五、原告は、昭和三七年八月四日被告に対し借入金返済および組合経費の弁済として被告の概算に基づき金八四万八、一〇六円を支払ったが、実際の債務は金八〇万九、一六六円であったので、被告は法律上の原因なくして金三万八、九四〇円の利益を受け、原告は同額の損失を受けた。

六、よって、原告は、被告に対し上記出資金四八万四、〇〇〇円、消費寄託金一一万一、四五〇円、同金一六九万二、三六八円および不当利得金三万八、九四〇円、以上合計金二三二万六、七五八円およびこれに対する原告が脱退した日の翌日である昭和三八年九月一日以降完済に至るまでの民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを、求める。

と述べ、さらに被告の後記自白の撤回には異議がある旨および被告の後記抗弁は否認する旨陳述し(た。)

立証≪省略≫

被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、

一、請求原因第一項のうち、原告がその主張の日に設立されたとの点を否認、その余の事実は認める。もっとも、被告は、本件第二回口頭弁論期日である昭和四〇年九月二日に答弁書に基づき請求原因第一項の事実は、すべて認める旨陳述したが、右自白は真実に反し、かつ錯誤に基づくものであるからこれを撤回する。すなわち原告は、もと三州澱粉株式会社と称し、昭和二七年九月一日設立と同時に被告組合に加入したものであるが、その後名称を濃州澱粉株式会社と変更し、昭和三四年九月二五日被告に対しその旨の名称変更届を提出しているものである。

二、請求原因第二項(一)の事実は、否認する。同項(二)の事実は認める。もっとも被告は、本件第二回口頭弁論期日である昭和四〇年九月二日に同項(一)のうち出資を受けた金額を除くその余の事実を認める旨陳述したが、上記のように原告は昭和三四年一月一〇日に設立されたものではなく、従って、その後に被告組合に加入したものではないから右設立および加入を前提とする原告の主張は何ら根拠がなく、右自白は真実に反し、かつ錯誤に基づくものとして、これを撤回する。

三、請求原因第三項(一)のうち寄託を受けた金額のみを争い、その余の事実は、認める。同項(二)の事実は、認める。

四、請求原因第四項のうち寄託を受けた金額のみを争い、その余の事実は、認める。

五、請求原因第五項の事実は、認める。

と述べ、抗弁として、

一、原告は、その名称を三州澱粉株式会社より濃州澱粉株式会社と変更するに際し、被告との間で原告会社財部工場を五年後の昭和三八年八月一日に法定資産償却後の帳簿価格をもって被告に売渡す旨の売買の予約をなした。しかるに、原告は、右約旨に反し昭和三七年七月訴外松本浩三に対し右財部工場を金八〇〇万円で売渡した。右財部工場の当時の帳簿価格は、金四〇〇万円であったから、被告は、原告の右債務不履行によってその差額金四〇〇万円の損害を受けた。よって、仮に被告が原告主張のような金員の支払債務を負担するとすれば、右金四〇〇万円の損害賠償債権をもって原告の本件請求債権に対しその対等額において相殺する。

と述べ(た。)

立証≪省略≫

理由

一、原告が昭和三四年一月一〇日設立された澱粉の製造販売を業とする会社であり、被告が中小企業等協同組合法に基づいて設立された法人であることは、当事者間に争いがない。

被告は、原告がもと昭和二七年九月一日設立された三州澱粉株式会社と同一の会社であって、その後右会社がその商号を変更し、原告会社になったものであるから、右自白は真実に反し、かつ錯誤に基づくものとしてこれを撤回する旨主張するが、原告が被告の主張するような商号変更による会社であることを肯認するに足る証拠はなく、かえって≪証拠省略≫によれば、昭和三三年一〇月頃は多くの澱粉会社が脱税を理由として税務署から一斉調査を受け、三州澱粉株式会社もその例にもれずその調査を受けるに至ったこと、そのため同会社の株主である訴外天水重吉、同天水豊重、同間宮成吉、同酒井利道らは協議の上、同会社を解散したこと、そして同会社とは別個に原告会社を昭和三四年一月一〇日設立登記したことが認められる。

そうだとすれば、被告の上記自白の撤回は、これを許容することができないものというべきである。

二、(一) 原告がその設立後程なく被告の承諾を得て被告に加入したことは、当事者間に争いがない。

≪証拠省略≫によれば、三州澱粉株式会社が昭和三三年一〇月頃に解散する際、同会社が被告に払込んでいた出資金三九万四、〇〇〇円(一九七口)および被告に新規加入した者から徴収した金を同会社に出資金として配当されたプレミアム金九万円、以上合計出資金四八万四、〇〇〇円、被告から融資を受けるために寄託した消費寄託金一一万一、四五〇円および同じく消費寄託金一六九万二、三六八円の返還請求権を含む一切の債権債務を原告において承継することに話がまとまり、三州澱粉株式会社および原告との間でその旨の法定手続がとられたこと、被告も右承継を承認し上記出資金および寄託金を原告においてなしたものとして帳簿上の処理をしたことが認められ(る。)≪証拠判断省略≫

(二) 請求原因第二項(二)(脱退)の事実は、当事者間に争いがない。

(三) ≪証拠省略≫によれば、被告の組合員が脱退したときは、その払込済出資金を限度として被告に対しその払戻を請求できること、組合員の持分は被告の正味財産につきその出資口数に応じて算定する旨被告の定款において定められていることが認められるから、被告は、原告に対し原告の脱退したときただちに右出資金四八万四、〇〇〇円の払戻をなすべき義務があるものといわなければならない。

三、請求原因第三項(一)(消費寄託)のうち寄託金額を除くその余の事実は、当事者間に争いがなく、上段判示の事実に徴すれば、原告は被告に対し金一一万一、四五〇円を寄託したことが明らかである。

そして、請求原因第三項(二)(返還の請求)の事実は、当事者間に争いがない。

そうだとすれば、被告は、原告に対し右寄託金一一万一、四五〇円の返還をなすべき義務があることは、明らかである。

四、請求原因第四項(消費寄託)のうち、寄託金額を除くその余の事実は、当事者間に争いがなく、上段判示の事実に徴すれば、原告は被告に対し金一六九万二、三六八円を寄託したことが明らかである。

五、請求原因第五項(不当利得)の事実は、当事者間に争いがない。

そうだとすれば、被告は、原告に対し右不当利得金三万八、九四〇円の返還をなすべき義務があることは、明らかである。

六、被告は、原告との間で原告会社財部工場を昭和三八年八月一日に法定資産償却後の帳簿価格をもって被告に売渡す旨の売買の予約をなしたのに、原告は右予約に反し右財部工場を松本浩三に代金八〇〇万円で売渡したから、被告は原告の右債務不履行により金四〇〇万円の損害を受けた旨主張し、かつ右損害賠償債権をもって本件請求債権と対等額で相殺する旨主張するが、原告と被告との間で被告の主張するような売買の予約がなされたとの事実を肯認するに足る証拠はないから、被告の右主張はその余の点について判断を加えるまでもなく、理由がない(もっとも、証人天水豊重の証言によれば昭和三三年一〇月末頃天水豊重、間宮成吉および酒井利道の三名が宮崎県の国鉄都城駅前にある、たから屋旅館に会合し、その席上原告会社財部工場を五年後の昭和三三年八月一日に法定資産償却後の帳簿価格で訴外天水産業株式会社に譲渡する旨の契約がなされたように窺われないでもないが、仮に右証人の証言どおりその契約がなされたとしても、右契約の当事者は被告ではなく、天水産業株式会社であるから、被告の上記主張は、失当であることが明らかである)。

七、以上のしだいであるから、原告の本訴請求は、被告に対し上記出資金四八万四、〇〇〇円、上記消費寄託金一一万一、四五〇円、同金一六九万二、三六八円および不当利得金三万八、九四〇円、以上合計金二三二万六、七五八円並びに内金二二八万七、八一八円(不当利得金を除いた合計金額)に対する履行期後である昭和三八年九月一日以降、残金三万八、九四〇円に対する履行期の翌日で、本件送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和四〇年五月二八日以降、各完済に至るまでの民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度において理由があるから正当として認容すべきも、その余は失当として棄却すべきである(不当利得返還請求権は、履行期の定めがない債権であるから、民法第四一二条第三項の規定により履行の請求を受けた時より遅滞におちいると解するのが相当であり、従って上記金三万八、九四〇円に対する遅延損害金は、本件訴状が被告に送達された日の翌日以降発生するものと解すべきである)。

よって、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条但書、仮執行の宣言については同法第一九六条第一項の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松本敏男 裁判官 吉野衛 松本昭彦)

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